【リレーコラム】競馬とHorse Racingの乖離~東京サンスポ・漆山貴禎
2021.8.2 14:34更新

今夏の芝ではレコードが頻発している。小倉芝1200メートルでは1999年にアグネスワールドが記録した日本レコードの1分6秒5を2勝クラスのプリモダルクが0秒1更新し、さらに翌日のCBC賞ではファストフォースが1分6秒0という空前のレコードを叩き出した。小倉では芝1800メートルでも3歳未勝利のエスコーラが日本レコード(1分43秒8)をマークしている。
高速決着といえば「硬い馬場→脚元に負担→故障の多発」という図式で捉える方もいるだろうが、騎乗しているジョッキーに聞くと「硬くはないですね。クッションが効いていてすごくいい馬場です」という答えが返ってくる。これだけの高速タイムが出るようになったのは、馬場造園技術の進歩の賜物(たまもの)だろう。
それでも、歴史に名を残すような馬たちの記録を条件馬があっさりと破っていくことにはやはり違和感を覚えてしまう。また、別の観点から高速決着のオンパレードに警鐘を鳴らす向きもある。「あんな馬場ではジョッキーが全然上手にならんで」。こう指摘するのは騎手としてJRA通算2111勝のレジェンド、河内洋調教師だ。師がサッカーボーイで88年マイルチャンピオンシップを勝ったときのタイムは1分35秒3(良)だった。「今なら未勝利も勝てん時計かもしれんな(苦笑)。これだけ速い馬場だと、とにかく前に行っていないと勝負にならん。脚をためるとか馬群をさばくとか、そういう工夫が必要なくなってしまう」と日本競馬の将来を危ぶんでいる。
日本馬の海外進出が進む一方、日本の競馬自体はガラパゴス化が進んでいるような気がしてならない。例外的に時計のかかる設定になりやすい宝塚記念や札幌記念が、凱旋門賞への試金石的な位置づけとなっているのは何とも皮肉だ。逆に、海外の強豪馬の来日は年々減る一方。JRAはジャパンCの振興策として東京競馬場内の国際厩舎新設や、帯同馬が出走可能なレースの増加などの策を打ち出してきているが、競馬とHorse Racingの乖離(かいり)が埋まらない限りはかつてのような華やかさは期待できないように思う。日本の競馬はこの先いかにあるべきなのか。サークル全体での議論が必要だろう。