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2021.4.28 04:56

【矢作芳人調教師 信は力なり】ラヴズ、遠征で精神力の強さ加わった

香港QEIIカップを制したラヴズオンリーユー(The Hong Kong Jockey Club提供)

香港QEIIカップを制したラヴズオンリーユー(The Hong Kong Jockey Club提供)【拡大】

 「差せ!」「ラヴ頑張れ!頑張れ!」日曜日の夕方、都内某所で絶叫していた。彼女が先頭でゴール板を駆け抜けた後、グッタリと力が抜けた。管理馬が海外の大レースを走っているのにテレビ観戦とは、このパンデミックの状況でなければあり得ないレアケースだけに、普段とはまた違った感動があった。

 ドバイシーマクラシックで惜敗した後、ラヴズオンリーユーは1頭だけでドバイに残った。かの地のレーシングシーズンは終了し、ドバイレーシングクラブの厚意で開場してくれたメイダンの馬場で、孤独な調教を続けた。当然予想された状況ではあったが、食欲は落ちて状態の維持は困難かと思われた。救いは馬場に配置されたポニーで、彼らの存在がラヴの調子下降を何とか踏みとどまらせてくれたように思う。

 担当の吉田助手は一度帰国して成田のホテルに3日間隔離された後、誰に会うこともなく帰国4日目に香港に旅立った。香港に先乗りしてラヴを出迎えた岡助手、レーシングマネジャーの安藤君、馬の力がもちろん第一であり、C・ホー騎手の好騎乗もあったが、彼らの優秀な能力が結集されたからこその偉業達成だった。そんな彼らを本当に誇りに思う。

 3歳秋以降負け続けたときは「もう終わった」「早熟」などと言われた。しかし自分の中ではむしろ晩成型ではないかと考えていた。根拠は身体の成長度合いがゆっくりだったからだ。全兄のラングレーやリアルスティールは1歳時から完成されていたが、ラヴが良くなってきたのは2歳夏以降。体質も弱く、オークスまでは能力だけで走っていた感じだったのだ。完成してきた馬体に今回の遠征で精神力の強さが加わった。彼女の今後の走りが本当に楽しみである。

 ■矢作 芳人(やはぎ・よしと) 1961(昭和36)年3月20日、東京生まれの60歳。父は大井競馬の矢作和人元調教師。開成高を卒業後、豪州での修業を経て84年に栗東トレセンへ。厩務員、調教助手を経て2005年に厩舎開業。27日現在、JRA通算700勝、重賞49勝(うちGI13勝)。ほかに海外GI3勝、交流GI3勝。