【佐藤洋一郎・馬に曳かれて半世紀(103)】ブランドよりも鮮度が酒の良否を決定~夏の新潟の教訓を秋競馬で、さあ実践

2019.9.11 12:03

 英国の「EU離脱延期法案」が、エリザベス女王の裁可を得て成立する見込み…というテレビのニュース映像を見ながら、生ビール用のジョッキに仕込んだギンギンのジンリッキー(?)を一気にあおった。かぁ~きくぅけ~こりゃいいわぁ。

 台風15号一過36度超の猛暑は、日が落ちても燃えさかっている。どんなに冷やしたビールでも、バケツでかぶるくらいのことをしないときかない。量ではなく質的に清涼感を高めてくれるものはないかと酒類棚を物色して歩いて…なんだこりゃ?

CRAFT GIN 香の雫

 中央アルプスの森に囲まれた養命酒駒ヶ根工場で蒸留。仕込み水は中央アルプスに磨かれた伏流水。ボタニカルには繊細で爽やかなアロマが感じられる香木、クロモジを主体に11種を使用…。

 長野人が作った森の香木ジンか。これはひょっとしたら…うーん、いける。タンカレーにもビーフィーターにもゴードンにもない衝撃的でオリエンンタルな香りが立ちこめている。37°でなく50°いや45°でもこの先、夏のメインスピリッツに据えてやるぞとテイストして、キウイと梨を刻んで氷と炭酸で攪拌しライム片を捻って浮かせ、さらに飲み口ぎりぎりまでジンの雫を満たした。そして、爽やかに香る冷気と生気を胸いっぱい吸い込み、ああ、これがジン、森の女神の暑気払いの薫風…。

 23年のキャリアを持つ女性鮮魚店主がロンドンで大繁盛!

 ジンの前だったか後だったか、サケにサカナのタイミングだったのでその女一心太助の紹介映像を見て、冷蔵庫に1枚だけ寝ていた鰺の干物を炙り、辛味大根の切れっぱしを下ろしてナッツ類とともにジンのアテにした。

 日本で17年間魚屋をやってきたというその女性オーナー(42歳?)はプロレスラーのように巨大な旦那(英国人)とロンドンに移住して「魚屋」を始め、英国の和食ブーム、文化を質的にも高めている。スシのタネはもちろん、カッド(cod鱈)の切り身の西京(味噌)漬け(朝並べたのが即売り切れ)やホースマカレル(horse mackerel鰺。マカレルは鯖)の干物は自分で開いて網棚に干すが、これも売り切れ御免のリピーターが急増している。なぜ馬・鯖が鰺になるのかという思いを巡らせていたら、いきなり「人気日本酒ブランド獺祭26万本自主回収」という酒にまつわる信じられないニュースが飛び込んできた。

 本来は16°でなければならない瓶詰めの獺祭のアルコール度数にばらつき(12~19°)が発見され、そのタンクから出荷(瓶詰め)された“26万本”が回収されるというのだ。前代未聞の珍事というよりほかはない。そのばらつきが、仕込み水で度数を整える際の攪拌が十分でなかったという不手際にあったというのだ。

 世界的な和食ブームとあいまっての日本酒の人気が急騰していることなど、競馬や周辺のスポーツくらいにしか強い関心を持たない多くの競馬人にはわからない。しかし、そのサケをつい最近、久しぶりに第二の故郷新潟で堪能してきた酒呑(瘋癲)童子には、醸造酒たる日本酒そのものの本質を理解していないソムリエ気取りのえせ飲兵衛がいかに多いかという思いとともに、粗製濫造の“酒工場”の乱立がいにしえの酒蔵とはほど遠い道を猛進している見るに耐えない現実を痛感する。

 新潟で8月31日~9月1日に新潟で飲んだ酒は〆張鶴も清泉(亀翁)も寒梅も洗心も、どれもこれもフレッシュでフルーティーで「淡麗」な越後の銘酒の品格と風合いを保持していた。それは藏で詰めた瓶が気温差や運搬などの変動によって劣化する前に、静かにすばやく飲食店に届いていることによる地の利に由来している。飲んだ酒のラベル(詰めた日付)はすべて8月8日以降、客が口にするまで2~3週間以内だった。その短い間でも空調もきかないような場所に平積みされていたりすれば、瞬く間に鮮度が失われ、香りはもとより味も下落する。同じことはワインにも言えて、空輸でも船旅でも、その間(店頭から愛飲者の口にとどくまでの)温度管理がでたらめだったりすれば、樽から瓶に詰められた乙女とは似ても似つかぬ姿に変貌してしまう。それが醸造品(酒だけではない)の宿命であり、ラベル(ブランド)よりも鮮度、藏から消費者に渡るプロセスの善しあしが飲んだときの酒の良否を決定する。蔵出しの生酒(ソムリエや監評会の試飲)と、瓶に詰められ粗雑な長旅を経て口にする陳(ひね)酒との違いがわかる飲兵衛なら、ラベル(ブランド)だけで醸造酒を選ぶようなことはまずしないし、できない。

 2018年には日本酒輸入が59万キロリットルで米国がトップで中国が2位(4146万キロリットル)だったのが、今や爆買い・中国が米に肉薄して追い抜く勢いを見せているという。その中国での厳正な利き酒(1400人による)の結果、最高賞に選ばれたマイナス10度で1年間熟成させる純米大吟醸「楚・ゴールド」にしても、奢りと濫造に傾けば、品格を失った横綱のような窮地に追い込まれる。秋の中山開幕週に出鼻をへし折られるような大敗を喫したダンゴ打ちの暗鬱な月曜日に、酒のさかなのようなテレビニュースが、日本馬にも同じようなことが起きていることを暗示していた。名酒ならぬ名種(牡馬)の終焉。次なる一手はどう打てばよいのか。その糸口さえ見えてこない。地団駄踏んでもしかたない、もう一杯やるか。

佐藤洋一郎(さとう・よういちろう)

 サンケイスポーツ記者。早大中退後、様々な職を転々とするなかサンスポの読者予想コンテストで優勝。71年にエイトの創刊要員として産経新聞社へ。サンスポの駆け出し記者時代に大橋巨泉の番記者に抜擢されたのが大きな転機に。季節・馬場・展開の3要素を予想に取り入れ数々の万馬券をヒットさせ、鬼才と呼ばれる。

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