【佐藤洋一郎・馬に曳かれて半世紀(90)】スピード競馬追求が生んだ日米GIでの斜行の悲劇

2019.6.12 12:24

 5月4日にチャーチルダウンズの薔薇(ランフォアロージズ)を根こそぎなぎ倒した大型ハリケーンが、6月8日のベルモントパークにはクワイエットストーム(静かな嵐)に姿を変えて忍び寄っていた。その異常なまでの静謐(せいひつ)に、稲妻が走るかのようにインスパイアされて反射的に(1)ジョーピアに◎を打っていたが…。

 雨に水没したルイビルの極悪不良「薔薇の園」を嫌って2頭がスクラッチ(取り消し)したあげく、19頭立て1番人気(3・1倍)に支持されて1位入線した4戦無敗のマキシマムセキュリティがなんと、17着に降着された。泥田の取っ組み合いになった4コーナーで、他馬の進路を大きく妨害したためだった。

 この斜行に異議を申し立てたF・プラ騎手のカントリーハウスが2位から1位に繰り上がり、マキシムは同じように抗議した15着ロードスター、16着ロングレンジトデイの次位という失格同然のペナルティーを課せられた。

 米国で発生した悪夢のようなハリケーンは1カ月後、東京の安田記念にも魔の手を伸ばした。

 「ロジクライは、発進不良(内側に逃避)、【制裁】ロジクライの武豊騎手は、発走後に内側に斜行したことについて6月8日の騎乗停止(被害馬15、14、13、12番)」

 完走はしたものの、川田騎手がゴールインしてから下馬して故障を気遣った(15)ダノンプレミアムは16着最下位。「スタートのトラブルで、5馬身くらいのロスがあった」Cルメール騎手の(14)アーモンドは上がり最速32秒4。ゴールを過ぎてから1、2着馬を串刺しにするほどのバケモノぶりをみせたが、斜行連鎖の後塵を浴びた(13)ペルシアンナイト(10着)、(12)ロードクエスト(12着)とロジクライ(9着)の着順が入れ替わることはなかった。

 同じ「斜行会」の「斜行ダンス」でも日米の歴史やモラルのちがいなどから採点が異なるのは仕方ないし、ケンタッキーダービーと安田記念を同じ土俵に乗せて論じることもはばかれる。そうした比較の良否ではなく、逃避とか逸走とか斜行と呼ばれるハタメイワクな“狂走”が騎手の技量の未熟さなどによってではなく、最高峰のGI舞台での世界でも指折り数えられるほどの名手、スーパージョッキーたちの手綱においても御し切れない。それがスピードを研ぎ澄まされたマイラー色の強い馬の気質、気性あるいは狂気によって引き起こされるところにある。

 平成以降、今がピークを迎えているとも思える「斜行会」の貴族、血族はきわめて個人的な見解だが、アメリカから流入している。

 かつてシンボリのオーナーブリーダー和田共弘はアメリカ競馬を「ドッグレース」と皮肉った。1周1マイル程度の陸上競技で使用するような平坦の土のトラックを猟犬のように突っ走る。そのスピード感をアメリカ人は好み、愛して、サラブレッドや競馬の概念さえをも変える「新世界」を切り開いた。その成果や歴史的な価値は認めざるをえない。アメリカに傾いて急速に繁栄した日本の平成競馬もしかり。栄枯盛衰は世の習いであり、好悪にかかわらず、こういう時代をもクールに受け止めなければならないことはわかっている。がしかし。 

 英国やフランスに競馬留学してきた鈴木康弘調教師が、まだハイセイコーの調教助手だった若き日に、藪を切り開いて造成された1周7ハロン程度の猫の額のような調教コースでオークスを制覇(一時は5頭も出馬させた)するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いの白井旋風を巻き起こした成宮明光調教師について「ナルさんはウェスタンサドル(アメリカの鞍)で、ぼくはブリティッシュサドル(イギリスの鞍)。どちらにも適鞍はあると思うし、いずれはそれなりの結果を出しますよ(笑)」

 マルセル・ブサックの血統書を飛行機に置き忘れてきたと悔しそうに嘆いていたスズヤスの笑顔を、今頃なぜ思い出したのか。仏ダービー12回、凱旋門賞6回、仏クラシック全勝、英仏で1800を越える勝ち鞍を積み重ねた大富豪でインブリードの奇才(かつアウトブリードの鬼才)と畏敬されたブサックに心酔(?)していたホースマンの夢がかないそうな時代がやっと来た…と予想しつつ、紙数がつきたので本題の〆に入る。

 サンスポにベルモントSの“二軍”のダンゴは掲載されないと聞いて、焦ることはないゆっくりいこう。競馬は日曜日なのだからと、安心していた。が、その夜ウマニティに東京、阪神の全予想を入稿すべく予想コロシアムページを開いたら、土曜日の東京1Rの上(最上位)に「アメリカ・ベルモントS」がデンと居座っていた。え、なぜ? 日曜日の7時発馬…というのはなんと朝の7時だったか! 

 というわけで10頭の出馬表を開いて、あらためてジョーピアに◎(=マルドン)と思ったが、ウマニティのダンゴにマルドンはないので仕方なく普通の◎にし、相手は○タシトゥス、これとの2頭軸3連単マルチで抜け目がくれば10頭立てでも6桁配当はいける。そう決めて、そうかオーサムアゲインの孫もいた。スキップアウェイ、シルバーチャーム、スウェインなど凄いのを一蹴した1998年チャーチルダウンズのBCでの絶叫を思い出すし、さらに2004年孤星公園(ローンスターパーク)で4角先頭、あわやの見せ場を作って6着に踏ん張った大井の韋駄天パーソナルラッシュを子供あしらいにして1分59秒2のオバケレコードで圧勝したゴーストザッパーの息子サーウィンストン。ダービーの反動もあってアメリカ競馬らしくないスローになりがちな2400のファイナルが、遅れて来た(実は昨年7月に新馬を勝っている)ステイヤータイプの逃げ馬ジョーピアの独り旅になる。ダービーの善戦で人気をかぶる日本馬の後方一気は不発に終わる…。

 この通りに買い目も引いたはずなのに…ウマニティの読者諸兄姉よ、面目ありません。

佐藤洋一郎(さとう・よういちろう)

 サンケイスポーツ記者。早大中退後、様々な職を転々とするなかサンスポの読者予想コンテストで優勝。71年にエイトの創刊要員として産経新聞社へ。サンスポの駆け出し記者時代に大橋巨泉の番記者に抜擢されたのが大きな転機に。季節・馬場・展開の3要素を予想に取り入れ数々の万馬券をヒットさせ、鬼才と呼ばれる。

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