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2019.2.6 12:02

【藤代三郎・馬券の休息(72)】競馬小説はフランシスだけじゃない・翻訳篇(2)エスターは幸せを掴めるのか?(1/3ページ)

週刊Gallop誌上で好評連載中の作家・藤代三郎氏が、競馬にまつわる日常を氏のユニークな視点で綴る「馬券の休息」

週刊Gallop誌上で好評連載中の作家・藤代三郎氏が、競馬にまつわる日常を氏のユニークな視点で綴る「馬券の休息」【拡大】

 競馬は児童文学、エンターテインメントだけでなく、文学の中でも描かれることが少なくない。たとえば、ヘミングウェーの短編「ぼくの父」では、騎手である父と一緒に、イタリアからフランスを旅する少年の日々を、少年の目を通して描いている。馬の素晴らしさ、美しさに感動する少年の胸の鼓動を鮮やかに描いて強い印象を残す短編だ。

 トルストイ『アンナ・カレーニナ』にも競馬のシーンがある。人妻アンナの恋の相手である青年士官ヴロンスキーが騎乗する障害レースの模様がたっぷりと描かれるのだ。

 しかしいちばん強く印象に残るのは、ゾラ『ナナ』の中に出てくるパリ大賞典の様子だろう。『居酒屋』のラストで15歳だったナナはこの小説で18歳となって登場するが、ヒロインと同じ名前のナナという馬が、パリ大賞典に出走するのだ。で、最低人気の40倍のその馬を買うとなんと1着。1000フラン(100万円)が4万フラン(4000万円)になって大騒ぎになるという場面である。

 問題は、その第7回(1869年)のパリ大賞典を実際に勝ったのは、グラヌールという馬だったこと。『ナナ』が書かれたのはその10年後である。つまり、10年前の競馬を小説中で描いたことになるが、覚えている人がまだ多いだろうに、勝ち馬を違う名前にしてしまったのである。当時の読者にリアリティーがあったのだろうかと心配になる。

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