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2018.10.10 11:53

【藤代三郎・馬券の休息(56)】みんな、頑張れ!ジョッキー・ベイビーズ2018~今年も手が痛くなるほど拍手をおくったのである

今年東京競馬場で行われた第10回ジョッキーベイビーズの様子

今年東京競馬場で行われた第10回ジョッキーベイビーズの様子【拡大】

 今年もジョッキーベイビーズが行われた。今年で10回目という人気イベントだ。去年も今年も毎日王冠の日に行われたから、毎年そうなのかと思ったら、最初の頃は11月だったんですね。秋競馬の東京競馬場、というのは変わらなくても、微妙に変わっている。

 このジョッキーベイビーズは、ポニーに乗った少年少女が、東京競馬場の芝コース直線400メートルで競うレースだ。最終レース終了後に行われるので、見ずに帰った年もあるけれど、半分以上は見ている。

 グリーンチャンネルでその予選会の模様を放映していたが、これが大変なんですね。東京競馬場で行われるのは決勝戦で、ここに出場するために全国で地区予選が行われるのである。地区によっては、10人以上の応募があった場合、予選の予選を何レースもやり、上位入線者3~4人の「地区予選の代表決定戦」をやったりする。逆にエントリーが少ない場合もある。それが東海地区で、今年は4人の応募しかなかったようで、こういう場合はその4人による一発勝負。

 この予選会の様子がグリーンチャンネルで放映されたのだが、これがなかなか面白かった。中でも笑ってしまったのは、スタートはしたものの、ゴールに向かわず、すぐにスタート地点に戻ったポニーがいたこと。前に進めよお前。競走することを訓練されているわけではないのだろうから、これは仕方がない。しかしその「戻ったポニー」に乗っていた山口あいり君はレース後のインタビューでとても楽しそうに話していた。

 そうなんである。みんながとても楽しそうにレースの感想を述べていたのが強く印象に残った。どこの地区だったか、忘れてしまったが、地区予選の決勝で落馬した子がいた。手元のメモには「持田剛紀君」とある。あるいは名前を少し間違えている可能性もあるが、その場合はごめんね。

 この持田剛紀君も、悔しさよりは楽しかったと答えていたから、馬に乗って走るという体験はそれ自体が楽しいものらしい。私は乗馬体験がないのでその楽しさを知らない。グリーンチャンネルのドキュメントを見ていたら、なんだか馬に乗りたくなってくる。

 スタートの方法は、大人が引き手を持ち、いっせいにその引き手を離す方法で行われるが、横一線というのはなかなか難しい。JRAにゲートが導入される前、バリヤー方式の時代には「馬追いの名人」がいて、横一線になるようにそろえたようだが、そこまでは望めないから、運不運がある。予選でも決勝でもスタートがよければそのまま逃げきり、というケースが多いので、本当に運次第だ。

 東京競馬場における今年のジョッキーベイビーズで、そのスタートに恵まれたのは、九州地区代表の吉永梨乃さん(小学5年生)。彼女のお姉さんの吉永彩乃さんは4年前にやはり九州地区代表になり、東京競馬場の決勝で3着になっているから(ちなみに、彩乃さんはその前年にも3着だ)、運ではなく、レースに強い血筋なのかも。

 この吉永梨乃さんがずっとリードしていたが、そこに猛然と差してきたのが長野地区代表の木村暁琉くん(小学6年生)と、東北・新潟地区代表の加藤雄真くん(中学1年生)。加藤雄真くんはなんと昨年の優勝者だ。この2人があっという間に吉永梨乃さんを差してトップに躍りでる。一度は、木村暁琉くんが先頭に立ったかに見えたが、加藤雄真くんが差し返して、なんと鼻面をそろえてゴール。今年のジョッキーベイビーズはまれに見る激戦だった。加藤くんが勝てば史上初の連覇。木村くんが勝てば6年前の小林君以来の長野勢の優勝ということになる。

 ゴールしたあと戻ってくるときに木村くんが手を合わせて拝む姿が大きくターフビジョンに映し出されたので場内が湧いた。その祈りが通じたのか写真判定の結果は木村くんが1着。加藤くんは鼻差で2着。しかし勝者はどちらでもいい。無事に走っただけで素晴らしい。何年か前、ゴール直後にこてんと落馬した子がいたが(すぐに立ち上がったが)、けがなく無事に完走できただけでいいのだ。 だから今年も、スタンドの指定席から立ち上がって、何度も拍手した。GIのスタート直前に拍手する風潮が気にいらず、私はこれまで一度も拍手したことがないが(いや、ミスターシービーが秋天を勝ったとき、ゴール前に引き揚げてきた吉永正人に拍手したことがある。あれは唯一の例外だ)、このジョッキーベイビーズは特別なのである。出場した8人だけのものではないのだ。山口あいり君や持田剛紀君など、全国の地区予選に出た少年少女たち全員のものであるのだ。

 今年だけではない。これから出場する少年少女たち全員のものであるのだ。みんな、元気に育ってくれ。未来は君たちの手の中にある。そういう万感の思いをこめて、手が痛くなるほど今年も拍手をおくったのである。

藤代三郎(ふじしろ・さぶろう)

 1946年生まれ。本名・目黒考二(めぐろ・こうじ)。明治大学文学部卒業後、76年に作家・椎名誠氏と書評誌「本の雑誌」創刊。ミステリーと野球とギャンブルをこよなく愛す。藤代三郎のほかにも群一郎、北上次郎など複数のペンネームを持ち、評論、執筆活動を幅広く展開。著書に「本の雑誌風雲録」「活字三昧」(いずれも目黒考二)や「冒険小説論」(北上次郎)。「戒厳令下のチンチロリン」や週刊ギャロップに創刊より連載している「馬券の真実」をまとめた「外れ馬券は人生である」などの“外れ馬券シリーズ”は藤代三郎として発行している。