2018.2.6 05:04
競馬界の話題を取り上げる「ズームアップ」。今回は、競走馬名の文字数制限を掘り下げていく。11日のGIII共同通信杯に出走予定のオウケンムーンは、父がオウケンブルースリ。「ブルース・リー」ではない。なぜなら、日本ではカタカナ9文字までというルールがあるからだ。アルファベット表記の問題や外国馬の例外、さらには今後の変更の可能性についてアプローチした。 (取材構成・柴田章利)
オウケンブルースリ、カルストンライトオ、グローリーグローリ…。なんとなく“1文字足りないのでは?”、と思わせる馬名の切り方はなぜ起こるのか。馬名登録にはカタカナで9文字以内という規定があるためだ。
JRA競走部の野呂秀樹業務課長補佐(40)は「国営競馬の時代は7文字という制限がありました。それが日本中央競馬会(JRA)になって、バリエーションを増やすために文字数を広げましたが、ある程度の制約は必要だろうということで9文字になったようです」と設定の経緯を説明した。
日本における馬名の登録は現在、JRAも地方競馬も一括して、ジャパン・スタッドブック・インターナショナルが管理。国際的にもこの登録名が使用される。登録にはGI馬など著名な馬の名前、公序良俗に反するもの、広告宣伝目的のものなど、使えないものも多い。たとえばインスタグラム(商品名)や、モモクロ(著名な人物・団体)、キョウダカラオレハ(牝馬のため、紛らわしい)などが審査で落ちているが、「最終的には審査官の判断です」と野呂さんは話す。
日本馬は9文字までだが、2006年のスプリンターズSを勝った豪州馬テイクオーバーターゲットのように、外国馬が来日した場合は、10文字以上になることも。これは「海外で付けた馬名はそれを尊重する」という国際交流特例規定があるためで、問題はない。
では、日本馬も文字数を増やせないのか? という声もある。しかし、地方競馬との折衝や、さまざまなシステムの変更など、越えるべきハードルは少なくない。
「7文字から9文字になったり、使用できなかった文字(ッやヴやヲなど)が使えるようになったりと、馬名制限も変化してきました。長く9文字でやってきて、馬主さんから(文字数増加の)要望がないわけでもありません。そうした意見を排除せず、これからも検討していきたいですね」
野呂さんは今後の文字数増の可能性に含みをもたせた。実現すれば馬名のバリエーションはさらに増えるはず。尻切れ馬名はなくなるときが来るかもしれない。
★現役のオープン馬ではジョーストリクトリなど
共同通信杯で人気の一角に推されそうなオウケンムーンは、父が2008年の菊花賞馬オウケンブルースリ。9文字制限のため最後の音引きがなく、名優ブルース・リーの名前をフルに付けられなかった形だ。カツラノハイセイコやファビラスラフインも同様のケースといえる。現役のオープン馬では、ジョーストリクトリ(Jo Strictly)やパフォーマプロミス(Perform a Promise)が、“微妙な”馬名といえるかもしれない。
★過去と同じ馬名つけること可能
過去の競走馬と同じ馬名をつけることも不可能ではない。競走馬登録抹消の翌年から9年、種牡馬になった馬などは繁殖登録抹消の翌年から14年が経過すれば、命名は可能だ。現役馬ヒシマサル(栗・角田、牡4)は3代目。毎日王冠など27戦13勝の初代が種牡馬登録を抹消したのが1962年で、その29年後の91年には2代目が登場した。きさらぎ賞など重賞を3勝し、引退後は種牡馬になった2代目も、2000年に種牡馬登録を抹消。その16年後に3代目がデビューした。
★かつては10文字も
競走馬名が7文字までと設定されたのは1937年。その前は制限がなかった。36年の農林省賞典障害(春)勝ち馬は、ジユピターユートピア。古くは日本にも10文字馬名の馬がいた。
★ローマ字は18文字まで
カタカナ9文字だけではなく、アルファベット表記で18文字以内というのも制限の内容。これは日本も批准しているパリ協約による。アルファベット18文字なのでカタカナで半分の9文字…というわけではない。「あくまでもアルファベット表記は付帯的なもの。日本語で馬名を付けるのが基本ですし、そもそもJRAの9文字の方がパリ協約より先です」と野呂さん。
ちなみに、かつて登録があったヒシカツヒトリタビは、カタカナで9文字だが、ローマ字表記にならうと“Hishikatsu Hitoritabi”で、スペースも1文字として計算するため21文字になる。そこで、スペースを取り、ローマ字表記を厳密に適用せず、“Hisikatuhitoritabi”で18文字に収めた。
★Dr.コパ賛成「1文字でも増えるのはいい」
馬主としては、9文字の制限をどう思うのか。コパノリッキーなどの馬主として知られるDr.コパこと小林祥晃氏は、「1文字でも増えるのはいいね。無理やり中途半端な馬名になってしまうこともあるから。バリエーションは増えると思いますよ」と賛成の立場。9文字に収めるために、苦労することがあるようだ。